Chapter 6

第6章: ロジック半導体 — CPU・GPU・SoC・AIアクセラレータ

2023 年、NVIDIA の株価が 1 年で 3 倍になった。 理由はたった一つ ── 同社の GPU が、生成 AI を動かす唯一の現実的な計算機になったから。

10 年前まで、GPU はゲーム機やグラフィックボード用の脇役だった。
それがいま、世界経済の中心に座っている。

なぜ GPU が選ばれたのか。CPU では駄目だったのか。
そして、その背後にある ロジック半導体 という大陸はどうなっているのか。

6.1 ロジック半導体とは何か

ロジック半導体 とは、ひとことで言えば 「計算する半導体」。 プログラムの命令を読み、論理ゲートを駆使して計算を行い、結果を出力する ── これを全部担当するチップだ。

代表的なカテゴリは次の通り:

カテゴリ主な役割
CPU汎用計算。一つ一つの命令を順番に高速に処理
GPU大量の並列計算。元はグラフィック、いまはAI
SoCスマホ向け。CPU+GPU+NPU+モデム+その他を統合
AIアクセラレータ / NPU / TPUAI 推論・学習に特化
MCU小型機器に組み込む小さい CPU + 周辺機能
FPGA後から回路を書き換えられる柔軟チップ
ASIC特定用途専用のカスタムチップ

6.2 CPU — 一人の天才が順番に解く

CPU (Central Processing Unit) は、汎用コンピュータの中央演算装置。 何でもできるが、本質的には 「複雑な命令を 1 つずつ順番に処理する」 設計だ。

CPU の内部には、命令を取り出す フェッチ、解読する デコード、実行する エグゼキュート、結果を書き戻す ライトバック という一連の流れがある(パイプライン)。

現代のCPU は、

という工夫で性能を上げてきた。だが、根本的には「一人の天才が頭の中で順番に解く」 スタイルである。

CPU は 「複雑な仕事を順番に処理する」 専門家。
得意:分岐が多い処理、OS、ブラウザ、データベース、Excel。 不得意:単純な計算を何兆回も繰り返す処理(AI、グラフィック)。

主要プレイヤー:

6.3 GPU — 大勢で同時に解く(なぜAIに化けたか)

GPU (Graphics Processing Unit) は元々、画面に絵を描くための専用チップだった。 3D グラフィックでは、画面の 数百万ピクセル に対して 同じ計算を並列に 行う必要がある。だから、GPU は CPU と真逆の設計になった。

CPUGPU
コア数数個〜数十個(大型・賢い)数千〜数万(小型・単純)
得意複雑な単体タスク大量の単純タスクを並列
設計思想強い少数精鋭大群衆

GPU は「大勢の素人を一斉に動かす」スタイル。1 人 1 人は CPU よりずっと弱いが、何千人もいる

2010 年代、深層学習ブームが来たとき、研究者は気づいた ── 「ニューラルネットの学習って、要するに 行列の掛け算を死ぬほどやるだけ じゃないか?それなら GPU でやれる」

これが運命の分かれ目になった。 NVIDIA は CUDA という GPU 向けプログラミング環境を 2006 年から地道に整備していた。 AI ブームが来たとき、CUDA で動くソフトウェアエコシステムがすでに揃っていたのは NVIDIA だけだった。

GPU が AI の主役になったのは、技術的必然と CUDA という 20 年仕込み の組合せだった。
他社は同じ性能の GPU を作っても、ソフトの牙城に阻まれて勝てない。
ハードでなくソフトの堀 が NVIDIA の本当の強さ。

6.4 SoC — スマホの中の小さな都市

SoC (System on a Chip) は、CPU・GPU・NPU・モデム・カメラ ISP・各種コントローラなどを 1 枚のチップに統合 したもの。

スマホは小さくて、電池の制約が厳しい。だから「いろんな機能をそれぞれ別々のチップに載せる」のではなく、全部を 1 つのチップに統合 する設計が選ばれる。

代表例:

SoCメーカー主な搭載先
Apple A シリーズ / M シリーズApple(製造は TSMC)iPhone、iPad、Mac
SnapdragonQualcommAndroid スマホ全般
DimensityMediaTekAndroid スマホ(中・廉価)
ExynosSamsungGalaxy 一部モデル
TensorGoogle(製造は Samsung)Pixel
KirinHiSilicon(Huawei 系列)Huawei スマホ

スマホ 1 台に半導体は数百個入っているが、全体性能の 8 割は SoC が決める。 だから「Apple M4」「Snapdragon 8 Gen 4」などの SoC 名が、商品の世代を表す目印になる。

6.5 AIアクセラレータとNPU — 行列計算に特化する

GPU で AI が動くと分かったが、GPU は元来グラフィック用なので、AI 向けに最適化すればもっと速くなる。 そこで生まれたのが AI アクセラレータ たちだ。

略称意味代表
NPUNeural Processing UnitApple M シリーズ内蔵、Qualcomm SoC、Intel CPU
TPUTensor Processing UnitGoogle(自社データセンター専用)
AI ASICAI 専用 ASICAmazon Trainium、Microsoft Maia、Meta MTIA
AI GPUAI 向け強化 GPUNVIDIA H100/H200/B200、AMD MI300

これら全部の共通点は、行列演算(特に積和演算)を高速・高効率で実行する こと。 ニューラルネットの本体は 巨大な行列の掛け算とソフトマックス なので、これに特化すれば消費電力あたりの性能は GPU の数倍〜数十倍にまで上がる。

エッジ AI とクラウド AI

エッジ AI(スマホ・PC・カメラ上で動かす)→ NPU が主役 クラウド AI(データセンター)→ GPU と AI ASIC が主役 ニュースで AI 半導体と聞いたら、まずどちらの話か区別すると見通しが良い。

6.6 x86 / Arm / RISC-V — 命令セットという土俵

CPU や SoC の話で必ず出てくるのが 命令セットアーキテクチャ (ISA) だ。 これは「CPU がどんな命令を理解するか」のルール集。

ISA主用途持ち主
x86 / x86-64PC、サーバIntel と AMD で実質的に独占
Armスマホ、組み込み、最近サーバ・PC へ拡大Arm Ltd(英、ソフトバンク傘下)
RISC-VIoT、組み込み、新興 AI チップオープン規格(誰でも使える)
POWER旧来の IBM 系IBM

特に Arm は ライセンス販売モデル で、設計図を世界中のチップメーカーに提供する。Apple Silicon も Qualcomm Snapdragon も AWS Graviton も、根は Arm。

RISC-V はオープン規格で、ロイヤリティが不要。米中対立の中で 中国 が特に注力している。NVIDIA や Western Digital も内部マイコンに採用しており、台頭中。

2020 年に Apple が「Mac を x86 から自社 Arm SoC に切替える」と発表したとき、業界は震えた。
それまで PC = x86 という常識が崩れたからだ。
2024 年には Microsoft も Qualcomm の Arm SoC を載せた Copilot+PC を出した。
PC 市場の x86 独占が終わりつつある ── これがいまリアルタイムで起きている。

6.7 王者NVIDIAとライバルたち

ロジック半導体の現代の主役を、ここで一覧しておく。

データセンター向け GPU / AIチップ:

PC・サーバ CPU:

スマホ SoC:

ロジック半導体は、設計 で価値が決まる世界。
製造(ファブ)は TSMC に外注するファブレスがほとんど。
だから NVIDIA・Apple・Qualcomm は「ファブを持たないが時価総額世界トップクラス」になれる。 詳しくは第 13 章「水平分業の地図」で扱う。

6.8 FPGA と ASIC ── 残りの2つ

最後に、ニュースで時々出るがやや脇役の 2 つを紹介。

FPGA (Field-Programmable Gate Array): 製造後にユーザー側で回路構成を書き換えられるチップ。試作・少量生産・通信機器・データセンター加速で使われる。AMD(旧 Xilinx を買収)と Intel(旧 Altera を吸収、後にスピンオフ)が二大勢力。

ASIC (Application-Specific Integrated Circuit): 特定用途専用に設計したカスタムチップ。設計コストはかかるが大量生産でコスパ最強。 ビットコインのマイニングチップ、Google TPU、各社の AI アクセラレータも広義の ASIC。

6.9 この章の振り返り

この章で読めるようになるニュース

次章は メモリ半導体。 “覚えておく” だけのチップが、いま AI 時代に GPU と並ぶ主役になっている話だ。