付録C: 用語集
本書に登場したエージェントまわりのワードを、ジャンル別 に並べた索引。
50 音順やアルファベット順ではなく、本書の物語の流れに沿った位置 で並べてある。 ニュースや SNS で見慣れない用語にぶつかったとき、ここに戻ってくれば「地図上のどこの話か」が掴めるように作った。
C.1 エージェントの基本
第1〜2章で導入した、本書のもっとも土台となる語。
| 用語 | ざっくり言うと | 詳しく書いてある章 |
|---|---|---|
| LLM (Large Language Model) | 与えられたテキストの続きを 1 トークンずつ予測する大規模モデル。Claude / GPT / Gemini など。本書はその「中身」は掘らない | 第1章 |
| トークン (Token) | LLM が読み書きする最小単位。だいたい単語より少し短い | 第1章 |
| 補完 (Completion) | LLM の生の機能。テキストを与えると続きを返す。1 往復で終わる | 第1章 |
| チャット (Chat) | 補完を会話風に並べた使い方。Web 版 ChatGPT / Claude が典型。手は出さない | 第1章 |
| エージェント (Agent) | LLM・道具・ハーネスを組み合わせ、目的を与えるとループを回して自律的に行動する プログラム | 第1章 |
| 道具 / ツール (Tool) | エージェントが外の世界に触る具体的な手段。read_file write_file Bash など | 第1, 5, 6章 |
| ハーネス (Harness) | LLM と道具の 間を取り持つ外側のプログラム。ループ本体 が住む場所。Claude Code・Cursor・Devin の本体ソフトウェアそのもの | 第1, 2章 |
| コーディングエージェント | コードベースに対して、編集・実行・テストを自律的に行うエージェント | 序章, 第1章 |
| 三角形(LLM + 道具 + ハーネス) | 本書を貫く最小構造。どれが欠けても “動く” 状態にはならない | 第2章 |
C.2 ループとサイクル
エージェントが「自分で繰り返す」中身の仕組み。第3〜4章の中心テーマ。
| 用語 | ざっくり言うと | 詳しく書いてある章 |
|---|---|---|
| ループ / agentic loop | エージェントが「考える→道具を呼ぶ→結果を見る」を 目的が達成されるまで繰り返す 仕組み。本書の主役 | 全章 |
| think → act → observe | ループ 1 周の三拍子。考える(LLM の応答)、行動する(道具実行)、観測する(結果を続きに渡す) | 第3章 |
| ReAct (Reason + Act) | think → act → observe を最初に明文化した 2022 年の研究系譜。現代エージェントの直接の祖先 | 第3章 |
| ターン (Turn) | ループ 1 周のこと。「max_turns = 10」は最大 10 周 | 第3, 4章 |
| 自然停止 | LLM が「もう道具を呼ばない出力」を返したとき、ハーネスがループから抜けること。最も基本の停止条件 | 第4章 |
| 早すぎる終了 | 本来はまだ作業が残っているのに、LLM が満足して止まってしまう病 | 第4, 10章 |
| 無限ループ | 同じツール呼び出しを延々と繰り返し、止まれなくなる病 | 第4, 10章 |
| max_turns / 上限 | 周回数の上限。ハーネス側で必ず差し込む安全装置 | 第4章 |
| stop_reason | Claude API の応答に付くフラグ。tool_use ならまだ続く、end_turn なら止まれる、の判定に使う | 第3章, 付録B |
C.3 道具と権限
道具がどう設計されると「良い道具」になるか。第5〜6章のテーマ。
| 用語 | ざっくり言うと | 詳しく書いてある章 |
|---|---|---|
| function calling / tool use | テキスト機械である LLM が、JSON Schema 形式で道具のカタログを渡される ことで、構造化された道具呼び出しを出せるようになる仕組み | 第5章 |
| JSON Schema | 道具の引数の型・必須項目・説明を構造的に記述するフォーマット。道具と LLM の「契約書」 | 第5章 |
| 道具の description | 道具に添える自然言語の説明文。良し悪しが エージェントの呼び出し精度 を直接決める | 第6章 |
| 道具カタログ | エージェントに渡す道具一式のリスト。どの道具をどう揃えるかが、ハーネス設計の腕の見せどころ | 第6章 |
| 並列ツール呼び出し | 一度の応答で複数の道具呼び出しを並行発行する仕組み。最近の LLM が対応 | 第6章 |
| 権限 (Permissions) | 「このツールはユーザー承認なしに呼んでよい / よくない」を制御する設定。Claude Code の permissions が代表 | 第6, 10章 |
| 承認モード (Approval policy) | 道具を呼ぶ前に承認を取るか取らないかの方針。Codex CLI の用語 | 第6, 10章 |
| 危険コマンドのホワイトリスト / ブラックリスト | rm -rf 等を実行前に止める仕組み。HITL の一形態 | 第10章 |
| 幻のツール呼び (Hallucinated tool) | 存在しない道具を呼ぼうとする病。description / カタログ設計の欠陥が引き金になる | 第10章 |
C.4 文脈とメモリ
LLM の「机の広さ」と、その机の上で何を覚え何を忘れさせるか。第7〜8章のテーマ。
| 用語 | ざっくり言うと | 詳しく書いてある章 |
|---|---|---|
| コンテキストウィンドウ | LLM が一度に頭に入れて読めるトークン数の上限。Claude Opus 4.5 は標準 20 万トークン、拡張版で 100 万トークン。GPT-4 系は 12.8 万トークン、Gemini 1.5 / 2 系は 100 万〜200 万トークン | 第7章 |
| 文脈 (Context) | エージェントが現在 LLM に渡している全テキスト。システムプロンプト + 履歴 + ツール結果の合計 | 第7章 |
| context rot | 文脈に余計な情報が積もって、LLM の判断品質が落ちていく現象。長時間ループ特有の課題 | 第7章, 終章 |
| 要約 (Summarization) | 文脈が肥大化したときに、過去のやり取りを LLM に要約させて畳む手法。/compact が代表 | 第7, 8章 |
/compact / /clear | Claude Code のセッション圧縮 / 全消しコマンド。文脈管理の代表的な手段 | 第7章 |
| CLAUDE.md / AGENTS.md / .cursorrules | プロジェクトに置く 永続メモリのファイル。プロジェクト固有の規約・設計判断・前提を、毎セッション LLM に自動投入する仕組み | 第8章, 付録A |
| メモリ階層 | session(その場限り)/ project(リポジトリ単位)/ global(ユーザー全体)の 3 階層構造 | 第8章 |
| 外部メモリ / RAG | コンテキストに入りきらない知識を、検索でその場で持ってくる仕組み | 第8章 |
| 永続セッション | クラウド型エージェント(Devin など)で、数時間〜数日にわたって文脈を保持し続ける仕組み | 終章 |
C.5 計画とサブエージェント
ループを「賢く」回すための、もうひとつ上の構造。第9章のテーマ。
| 用語 | ざっくり言うと | 詳しく書いてある章 |
|---|---|---|
| Plan mode / 計画モード | エージェントが 書き込みを伴う道具を呼ばずに、計画だけを立てる モード。Claude Code 等で採用 | 第9章 |
| TodoWrite / タスクリスト | エージェントが自分の作業計画をリスト化し、進捗を順次マークしていく仕組み | 第9章 |
| サブエージェント (Sub-agent) | 親エージェントから呼ばれて、限定された目的で動く子エージェント。独立したコンテキスト を持つのが特徴 | 第9章, 付録A |
| Task ツール | Claude Code が持つ「サブエージェントを起動するためのツール」 | 第9章 |
| マルチエージェント | 複数のエージェントが役割分担して協調する構成。planner / coder / reviewer の分業など | 第9章, 終章 |
| オーケストレーション | 親エージェントが子エージェントを束ねて回す設計パターン | 第9章, 終章 |
C.6 安全装置と人間介入
ループを暴走させないための仕組み。第10章のテーマ。
| 用語 | ざっくり言うと | 詳しく書いてある章 |
|---|---|---|
| HITL (Human-in-the-Loop) | ループのどこかで 人間が判断 / 承認 / 修正に入る 設計。エージェントの安全装置の主役 | 第10章, 終章 |
| 三大病 | 早すぎる終了・無限ループ・幻のツール呼び。本書が定義したエージェントの代表的失敗パターン | 第10章, 付録B |
| 差分プレビュー (Diff preview) | 編集を反映する前に、ユーザーに差分を見せて Accept / Reject を取る UI。Cursor が代表 | 第10章, 付録A |
| 承認導線 | 「どの操作の前に・誰に・何を見せて承認を取るか」を設計する全体の流れ | 第10章 |
| 非同期承認 | 長時間タスクのエージェントが、Slack や PR コメントで遠隔から承認を取る形式 | 終章 |
| ガードレール | 道具レベル・ループレベル・出力レベルで「やってはいけないこと」を抑え込む仕組みの総称 | 第10章 |
C.7 拡張機構(MCP・Skills など)
本書では本格的には踏み込まなかったが、骨格の “コネクタ” 部分として何度か顔を出した語。
| 用語 | ざっくり言うと | 詳しく書いてある章 |
|---|---|---|
| MCP (Model Context Protocol) | Anthropic が 2024 年に公開した、エージェントと外部ツール/データソースを繋ぐ オープンな通信規格。「道具のコネクタを標準化したもの」 | 終章, 付録A |
| MCP サーバー | 外部ツール側を MCP 仕様に従って提供する実装。Chrome / Figma / Notion / Slack など、SaaS や開発者ツールが続々対応 | 終章 |
| A2A (Agent to Agent) | エージェント同士が標準化された口で呼び合うための考え方/規格群 | 終章 |
| Skills / Plugins | Claude Code 等で、エージェントの能力を後付けで足す拡張パッケージ群 | 付録A |
| hooks | エージェントのライフサイクル(編集前 / 編集後 / Bash 前など)に 任意の処理を割り込ませる 仕組み | 付録A |
| Computer Use / Browser Use | スクリーンショットと座標クリックで、エージェントに 画面を操作させる 拡張機構 | 終章 |
| マルチモーダル | テキスト以外(画像、音声、画面)を LLM の観測対象として扱うこと | 終章 |
C.8 主要プロダクト名
各プロダクトの詳細比較は 付録A にある。ここでは一行紹介に留める。
| プロダクト | 一言で | 詳細 |
|---|---|---|
| Claude Code | Anthropic 公式の CLI エージェント。拡張機構の豊富さが特徴 | 付録A |
| Cursor | エディタ一体型エージェント。差分 Accept による HITL が主役 | 付録A |
| Codex CLI | OpenAI 公式の CLI エージェント。素直な作り | 付録A |
| Devin | Cognition のクラウド自律エージェント。長時間タスクの先頭走者 | 付録A |
| Aider | git と密結合した OSS エージェント。最小ループ志向 | 付録A |
| OpenHands | Docker サンドボックス前提の OSS エージェントフレームワーク | 付録A |
C.9 評価と検証
ループの良し悪しを測る側の用語。本書では終章で触れた。
| 用語 | ざっくり言うと | 詳しく書いてある章 |
|---|---|---|
| タスク完了率 | 与えた仕事を、どれだけ最後までやり切れたかの割合 | 終章 |
| ステップ効率 | 何ターン/何トークンで達成したかという経済性の指標 | 終章 |
| 介入回数 | 人間に何度承認・修正を求めたかの数 | 終章 |
| 再現性 | 同じ指示で、同じような品質を返せるかの度合い | 終章 |
| LLM-as-Judge | 別の LLM に評価役をやらせる方式。エージェント評価でも使われる | 終章 |
C.10 本書を読み終えたあとに
ここに並ぶ用語は、2026 年現在の語彙だ。 来年には新しい言葉が増え、いくつかは廃れているはずだ。
それでも、本書を通して身についた 骨格 ── LLM + 道具 + ハーネス、think → act → observe、停止条件、文脈、サブエージェント、HITL ── は、しばらく形を変えないと思う。
新しい用語に出会ったときに、それが 骨格のどこに刺さるのか を問う癖さえあれば、あなたはもう自力で歩いていける。 この用語集はそのための地図帳として、これからも机のそばに置いておいてほしい。
良いループの旅を。