付録

用語集

本書に登場した自然言語処理ワードを、章の順 で並べた索引。
ニュースや論文で見慣れない用語が出てきたら、ここに戻ってきてほしい。
五十音やアルファベット順ではなく、本書の物語の流れに沿った位置 で並べてある。

言葉を数にする(第1〜3章)

用語ざっくり言うと
トークン (Token)機械が言葉を扱うときの「単位」。文字、単語、サブワードのいずれか
トークン化 (Tokenization)文字列をトークンの並びに切る工程。LLM の最初の関門
形態素解析日本語を意味のある最小単位に切り、品詞も付ける古典的手法。MeCab が代表
サブワード分割単語より細かい単位(語幹・接尾辞・断片)に切る現代の主流
BPE (Byte-Pair Encoding)頻出するトークンペアを 1 つにマージしていくサブワード手法。GPT 系で採用
WordPieceBERT 系で採用されるサブワード手法
SentencePiece言語非依存のサブワード手法。多言語モデルでよく使われる
UNK (Unknown)辞書にない単語を表す特殊トークン
コンテキスト長LLM が一度に頭に入れて読めるトークン数。Claude Opus は 100 万トークン
埋め込み (Embedding)トークンをベクトル(数百〜数千次元の点)に変換すること
埋め込みベクトル各トークンに割り当てられたベクトル。空間内の座標とみなせる
Word2Vec周辺単語予測で埋め込みを自動学習する手法(2013)。静的埋め込みの代表
静的埋め込み (Static Embedding)1 トークン = 1 ベクトル。文脈で動かない
文脈埋め込み (Contextual Embedding)同じトークンでも文脈に応じてベクトルが動的に決まる方式
多義語 (Polysemy)1 つの単語が複数の意味を持つ現象
ELMo文脈埋め込みを実用化した初期モデル(2018)。LSTM ベース

系列を扱う(第4〜5章)

用語ざっくり言うと
言語モデル (Language Model, LM)単語の並びに確率を割り当てる機械。LLM もこの系譜
条件付き確率「ある条件のもとで、ある事象が起きる確率」。次トークン予測の基礎
n-gram直前 n−1 単語だけを見て次を予測する近似モデル
bigram / trigramn=2 / n=3 の n-gram
データスパースネス(疎性)組み合わせ爆発で「見たことない並び」が大量に出る問題
スムージング出現回数 0 の並びにも、ゼロでない確率を割り当てる工夫
BLEU機械翻訳の評価指標。n-gram の一致率がベース
RNN (Recurrent Neural Network)系列を 1 トークンずつ読み、内部状態に文脈を蓄えるネットワーク
LSTM (Long Short-Term Memory)RNN の改良版。ゲートで記憶を制御し、長距離依存に対応
GRULSTM の親戚で、ゲートを単純化したもの
seq2seqRNN を 2 つ使う構造(入力 RNN + 出力 RNN)。機械翻訳で広まった
勾配消失問題学習信号が長い系列を遡るうちに薄れる現象

注意機構と Transformer(第6〜7章)

用語ざっくり言うと
Attention(注意機構)出力の各位置で「入力のどこに注目するか」を学習する仕組み
Self-Attention(自己注意)同じ文の中の単語同士に Attention を適用する手法
Multi-Head Attention複数の Attention を並列に走らせ、異なる視点を同時に取る
TransformerAttention だけで構成された 2017 年のアーキテクチャ。現代 LLM の土台
Encoder(エンコーダ)入力を読み込み、文脈付きベクトル表現を作る側
Decoder(デコーダ)これまでの出力を見て、次のトークンを生成する側
Positional Encoding(位置エンコーディング)順序情報をベクトルに加える仕掛け
Feed-Forward Network (FFN)Transformer ブロック内の、各位置を独立に変換する層
Layer / 層Transformer ブロックを積み重ねた単位。GPT-3 は 96 層

大規模言語モデル(第8〜10章)

用語ざっくり言うと
事前学習 (Pre-training)ラベルなし大量テキストで先にモデルを訓練する工程
微調整 (Fine-tuning)事前学習済みモデルを特定タスクに合わせて調整する工程
BERTTransformer エンコーダの大規模事前学習モデル(2018)。読む系タスクで強い
Masked Language Model (MLM)文中のトークンを隠して当てさせる事前学習タスク。BERT で採用
双方向 (Bidirectional)前後の文脈を同時に見ること。BERT の強みの根源
GPT (Generative Pre-trained Transformer)Transformer デコーダの大規模事前学習モデル。書く系タスクで強い
次トークン予測 (Next Token Prediction)「次に来るトークン」を当てる事前学習タスク。GPT で採用
自己回帰的生成 (Autoregressive Generation)生成済みトークンを入力に戻して、次を予測することを繰り返す方式
In-Context Learningプロンプト内で例を見せるだけで、追加学習なしにタスクをこなさせる現象
Zero-shot / Few-shot例なし / 数例だけ見せてタスクを解かせる方法
スケーリング則 (Scaling Laws)モデル・データ・計算量を増やすと性能が滑らかに伸びる経験則
創発的能力 (Emergent Capability)規模が特定の閾値を超えた瞬間に現れる新しい能力
Instruction Tuning「指示 → 望ましい応答」のペアで微調整、指示追従を仕込む
RLHF (Reinforcement Learning from Human Feedback)人間の好みを学んだ報酬モデルで LLM を強化学習で磨く
報酬モデル (Reward Model)応答の「人間からの好まれ度」を予測する別モデル
HHH (Helpful, Honest, Harmless)LLM が満たすべき三原則
RLAIF人間ではなく AI のフィードバックで強化学習する方式
Constitutional AIモデル自身に原則違反を見抜かせて修正させる手法(Anthropic)
DPO (Direct Preference Optimization)報酬モデルを介さず、好みデータから直接 LLM を最適化する手法

応用と評価(第11〜13章)

用語ざっくり言うと
RAG (Retrieval-Augmented Generation)検索で外部情報を取得し、プロンプトに加えて LLM に答えさせる
ベクトル検索 (Semantic Search)意味の近さで文書を探す方式。埋め込みベクトルの応用
Reranker検索結果を再ランクし直すモデル。RAG の品質を上げる
Hybrid Searchキーワード検索とベクトル検索を組み合わせる方式
GraphRAG文書間の関係をグラフで持ち、構造を辿って情報取得する手法
Multi-hop複数回の検索を組み合わせて、複雑な質問に答える方式
マルチモーダル (Multimodal)テキスト・画像・音声・動画など複数の情報形式を一体で扱うこと
モーダル (Modality)情報の種類(テキスト、画像、音声、動画など)
Vision Transformer (ViT)画像をパッチに分割して Transformer で扱う手法
CLIP画像とテキストを同じ埋め込み空間に揃えた歴史的モデル(OpenAI、2021)
CLAPCLIP の音声版。音声とテキストを同じ空間に揃える
WhisperOpenAI の音声認識モデル。Transformer ベース
ハルシネーション (Hallucination)LLM が事実に基づかない内容を流暢に生成する現象
MMLU57 分野の多肢選択問題で LLM を評価するベンチマーク
HumanEvalコード生成精度を測るベンチマーク
GSM8K / MATH数学問題で LLM を評価するベンチマーク
LLM-as-JudgeLLM に別の LLM の出力を評価させる方式
Calibration(自己校正)LLM が自分の出力に「自信度」を付ける能力
Mechanistic InterpretabilityLLM の内部構造を解析し、「何を知っているか」を覗き見る研究

主要モデル名一覧

モデル提供元系統
GPT-2 / GPT-3 / GPT-4 / GPT-5OpenAIデコーダ系
ChatGPTOpenAIGPT に RLHF を適用した対話特化版
ClaudeAnthropicデコーダ系。Constitutional AI で訓練
GeminiGoogleマルチモーダル一体型のデコーダ系
Llama 系Meta公開ウェイトのデコーダ系
Mistral / MixtralMistral AI効率的なオープン LLM
DeepSeek / Qwen中国各社高性能オープンモデル
BERTGoogle元祖エンコーダ系
RoBERTaMetaBERT の学習設定を最適化
DistilBERTHugging FaceBERT を圧縮した軽量版
T5 / BARTGoogle / Metaエンコーダ + デコーダ系

NLP の用語は、似たような名前と概念が次々と出てきて、慣れるまでは混乱する。
だが本書を頭から通読すれば、これらの用語が 物語の中の登場人物 として、それぞれの役割と位置を持っていることが分かるはずだ。